- ダイエットコーラや人工甘味料入飲料なら太らないと信じている人
- 人工甘味料と体への影響について根拠ある主張を知りたい人
- 栄養学の論文を読みたい人(いたら一緒に読みましょう!)
前回に引き続き、ライザップ中(減量中)の我々の日常と切り離せない人工甘味料について、「本当に人工甘味料なら太らないと言えるのか」という疑問についてご紹介します。
「人工甘味料なんて取ってないよ」
という方もいるかも知れませんがプロテインには人工甘味料が使われていますし、加工食品には非常に微量とはいえ知らない内に人工甘味料が使われていたりするんですよ!
詳しくは前回の記事もしくは厚生労働省の調査資料をご覧頂ければと思います。
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人工甘味料入り飲料なら太らないというのはウソ?
まず、ご紹介したいのはObesity誌で発表された「肥満の流行を助長する? 人工甘味料飲料の使用と長期的な体重増加」という論文です。
Fowler, Sharon P., et al. “Fueling the obesity epidemic? Artificially sweetened beverage use and long‐term weight gain.” Obesity 16.8 (2008): 1894-1900.
この論文では、アメリカのテキサス州サンアントニオの住人に対して行われた研究において、様々な属性を考慮して分析を行った結果、人工甘味料入り飲料を摂取する人の間で一貫してBMIが増えていることが明らかになりました。
運動量が増えている人、糖尿病罹患者、BMI30以下の人の間では、これらの違いは有意ではありませんでしたが、残りの13属性すべてで有意でした。
人工甘味料入り飲料はむしろ肥満を増やしている?
これらの調査結果は、人工甘味料入り飲料の使用によって肥満と戦うというよりもむしろ、肥満を拡大させているのではないかと示唆されると結論づけています。
この研究は2012年のもので非常に多くの反響がありました。ローカロリーもしくはゼロカロリー飲料でありながら、むしろ肥満を増やしているのではないかと考えられたというのは皮肉なことです。
この研究により、人工甘味料飲料とその肥満との関係について世界中で調査が行われるきっかけとなりました。
砂糖入り飲料の代わりに人工甘味料・ジュースにすればいいの?
この疑問に直接答えるわけではありませんが、肥満との関係性が指摘されている「2型糖尿病」の発症と、砂糖、人工甘味料、そしてジュースの消費量との関係を、様々な研究の系統的レビューおよびメタアナリシスを行った研究をご紹介します。
2型糖尿病とジュースや人工甘味料入り飲料の関係はあるか?
2型糖尿病とは生活習慣病とされる糖尿病の多くを占める病気であり、遺伝的な要因に運動不足や食べ過ぎなどの生活習慣が加わって発症すると考えられています。(参考:オムロンヘルスケア)
この2型糖尿病と甘味料入り飲料の関係性について2015年Bmj誌に掲載された「砂糖甘味飲料、人工甘味飲料、フルーツジュースの消費と2型糖尿病の発生率:系統的レビュー、メタアナリシス、および人口寄与割合の推定」という論文をご紹介します。
Imamura, Fumiaki, et al. “Consumption of sugar sweetened beverages, artificially sweetened beverages, and fruit juice and incidence of type 2 diabetes: systematic review, meta-analysis, and estimation of population attributable fraction.” Bmj 351 (2015): h3576.
みなさんも様々な情報からすでに知っているかとは思いますが、砂糖入り甘味飲料の習慣的な摂取は、肥満とは無関係に2型糖尿病の発生率の増加と関連していました。
人工甘味料入り飲料も2型糖尿病の発生率と正の関連を示しましたが、この結果はバイアスが生じていると考えられています。また果汁に関しても2型糖尿病を客観的に確認する研究においては有意ではなかったと結論づけています。
それにもかかわらず、人工甘味料入り飲料およびフルーツジュースの両方が2型糖尿病の予防のために砂糖入り飲料に健康的な代替品であることはほとんどないことがわかりました。
砂糖入り飲料の代わりとしてのジュースや人工甘味料は意味ない?
つまり、砂糖入り飲料をやめて人工甘味料入り飲料やフルーツジュースを摂取し始めたとしても、それは健康になるための代用品になるわけではないということです。
今回の研究では米国で今後10年にわたって発生すると予測される2型糖尿病の2,990万件の事象のうち、180万は砂糖入り飲料の消費に起因すると考えられています。(95%信頼区間3.9%〜12.9%)。
長年にわたる糖甘味飲料の摂取は糖尿病の相当数の症例に関連している可能性があらためて指摘されています。
血糖値をスマートに計測するウェアラブルが広がりつつある
これまで、血糖値は病院での採血が必要だったり、糖尿病罹患者の方が自分で採血するなど非常に手間がかかりましたが、ウェアラブルデバイスで血糖値が計測できるようになりつつあります。
病院などでは持続血糖値測定器(リブレstyle®)というデバイスが使われており、以前スマウェルの記事でも取り上げておりました。
健康な方を対象にした血糖値コントロールについてはこちらの記事も大変参考になります。モニター会員(基礎疾患なし・30代男性)に持続血糖測定器を2週間装着してもらい、食事や運動による血糖値の変動をリアルタイムモニタリングした体験談です。
人工甘味料がなぜ肥満を促進する可能性があるの?
アスパルテームが肥満に与える生化学的な反応を実験した研究
これまでご紹介した論文では、「砂糖入り飲料の代わりに人工甘味料を摂取している人も肥満になっている可能性があること」、そして「代表的な糖尿病といえる2型糖尿病の原因としてやはり砂糖入り飲料が上げられること、加えて人工甘味料入り飲料やフルーツジュースを砂糖入り飲料の代わりとしても健康になるわけではない可能性が示唆されること」を紹介しました。
それでは、次に人工甘味料の1種である「アスパルテーム」という物質の影響について調べた「アスパルテームはどのようにマウスの耐糖能異常や肥満を促進するか?」という、マサチューセッツ総合病院の研究者らによって行われた実験論文をご紹介します。
Gul, Sarah S., et al. “Inhibition of the gut enzyme intestinal alkaline phosphatase may explain how aspartame promotes glucose intolerance and obesity in mice.” Applied Physiology, Nutrition, and Metabolism 42.1 (2016): 77-83.
この研究では「なぜ砂糖を代替するアスパルテームの使用が体重減少を促進しないのか」を説明する可能なメカニズムを発見しました。Applied Physiology, Nutrition, and Metabolism誌に掲載されました。
研究によるとアステルパームが体内に摂取されるとが分解されて生成される「フェニルアラニン(PHE)」が「小腸型アルカリ性ホスファターゼ(IAP)」を阻害することから代謝に影響を与えていると結論づけました。
このIAPはマウスのメタボリックシンドロームを予防することが示されています。
健康診断でALPという数値を見たことありませんか?
この実験で突然出てきた「アルカリ性ホスファターゼ」とはなんでしょうか。これは骨、肝臓、腎臓など体中に存在している酵素で、みなさんも血液検査で「ALP」という指標でみたことがある意外と身近な酵素かもしれません。
そのALPの中でも小腸に存在するのが小腸型ALP、つまり「小腸型アルカリ性ホスファターゼ(IAP)」というわけです。このIAPは人体の代謝、特に脂質代謝において重要な機能を果たしていると考えられています。
健康診断で「脂質代謝異常」のときはALPが通常より高いということです。
繰り返しになりますが、この実験ではメタボリックシンドロームに対するIAPの保護効果が、アステルパームの代謝産物であるPHEによって阻害されることで、代謝がうまく行われなくなり肥満につながる可能性があることが示唆されるという結論が出されました。
腸内細菌叢とダイエットの関係にも人工甘味料が関係している
これまでの研究では人工甘味料によっては、肥満との関係があるのではないかという研究結果が出されているもののまだまだ十分な証拠が集まっているとは言えません。
腸内環境に悪影響を及ぼす人工甘味料という可能性
次に紹介する論文では、ダイエットと人工甘味料との関係をレビューしたもので、特に腸内細菌叢に注目して解説しています。腸内細菌叢とは、みなさんもよくきいたことのある「ビフィズス菌」などの腸内に住んでいる微生物の集合体のことを指しています。
実はこの菌に対して人工甘味料の摂取が影響するのではないかと考えられているのです。
Zmora, Niv, Jotham Suez, and Eran Elinav. “You are what you eat: diet, health and the gut microbiota.” Nature Reviews Gastroenterology & Hepatology (2018): 1.
この論文はネイチャーの姉妹誌である「Nature Reviews Gastroenterology & Hepatology」に掲載された2018年の論文です。
前回はアスパルテームがラットの脂質代謝に影響を与えるという研究でしたが、その他にもサッカリン、スクラロース、アスパルテーム、シクラメート、ネオテームおよびアセスルファム – カリウムのようなその他の人工甘味料においても、代謝異常症および代謝恒常性の破壊の両方が報告されています。
またヒトでの小規模介入試験も行われており、サッカリン摂取後のグルコース恒常性の乱れは、参加者全員ではないものの観測されという研究があります。
ただ、6日間120 mgのサッカリン摂取時において, n = 7ということですので、かなり大量のサッカリンを摂取した状況下で、人によって影響が出る可能性が示唆されているというものです。
前述の通り、現在の日本人の人工甘味料摂取量は1日2mg以下ですのでこの条件もかなり過剰摂取であると言えることは念頭に置く必要があります。
一度変化した微生物叢を移植すると健康なマウスも代謝異常に!
また、面白いのは人工甘味料を摂取したマウスからの微生物叢構成の糞便移植、または人工甘味料の存在下で嫌気的に培養された微生物叢を無菌マウスに移すと、完全に移転可能であることも分かりました。
つまり、人工甘味料によって腸内の微生物叢が変化すると、それを他の健康なマウスに移植すると同じように代謝異常がみられるというわけです。人間でも健康な人の便を移植すると健康になると言われていますがあながち間違いではないのかもしれません。
Suez, Jotham, et al. “Artificial sweeteners induce glucose intolerance by altering the gut microbiota.” Nature 514.7521 (2014): 181.
今後、大規模なランダム化比較試験が必須であると考えられていますが、参加者の腸内細菌叢の違いによって影響が異なる可能性が示唆されます。
それにより、砂糖などのカロリーのある甘味料を人工甘味料で代用することで利益を得る可能性がある人と、避けるべき人を区別できる可能性が示唆されます。
もっと腸内細菌叢と人工甘味料との関係について知りたい人へ
これまで紹介してきた論文は、人工甘味料とダイエットの関係、そして肥満をもたらす代謝異常の原因としての人工甘味料の影響について考察してきたものです。
レビュー論文やメタアナリシス論文というこれまでの世界中の研究成果をまとめた価値の高い論文であるため内容については質が高いと考えて良いと思います。また、ネイチャーやその姉妹誌に掲載された論文などは学術的な価値も高く評価されます。
これまでの論文から人工甘味料とダイエットの関係については、以下のようにまとめることができます。
- 人工甘味料はローカロリー・カロリーゼロだがとある調査により肥満が観察された
- マウスの実験で人工甘味料を摂取すると代謝異常が観察された
- 生化学的研究で、人工甘味料が体内で代謝されることで生じた物質が、代謝に影響を与える特定の酵素の働きを阻害する可能性が示唆された
- 人工甘味料が腸内細菌叢を変化させることが観察された
- 人間での実験でもマウスと同様、人によっては腸内細菌叢の変化が観察された
現時点では「人工甘味料が人間の肥満を引き起こす」、「人工甘味料が人間の糖尿病を引き起こす」とまでは言うことができませんし、そのような実験結果も統計的な観察もされていません。
とはいえ、興味深い研究結果が次々に発表されていますので今後も注目ですね。
サッカリンと腸内細菌叢の変化による炎症を観察した論文
Bian, Xiaoming, et al. “Saccharin induced liver inflammation in mice by altering the gut microbiota and its metabolic functions.” Food and Chemical Toxicology 107 (2017): 530-539.
肝臓における前炎症性iNOSおよびTNF-αの発現の増加は、サッカリンがマウスにおいて炎症を誘発したことを示します。
炎症誘発性代謝物の増加と合わせて、LPSや細菌毒素などの病原体関連分子パターンの豊富な対応関係が変化した腸内細菌属は、サッカリン誘発性肝炎症が腸内細菌叢およびその微生物の乱れと関連している可能性が示唆されました。
人工甘味料とマウスの腸内細菌叢への影響に関する論文
Uebanso, Takashi, et al. “Effects of low-dose non-caloric sweetener consumption on gut microbiota in mice.” Nutrients 9.6 (2017): 560.
本研究では、スクラロースまたはアセスルファム-Kの摂取(最大許容1日摂取量(ADI)レベル15mg / kg体重)がマウスの腸内マイクロバイオームに及ぼす影響をしらべました。
スクラロースを8週間摂取すると糞中におけるクロストリジウムクラスターXIVa(腸管で酪酸を産生すると考えられる菌類)の相対量が減少した。スクラロースとアセスルファム-Kは、食物摂取量、体重の増加、または肝臓の重量、あるいは精巣上体、盲腸の脂肪を増加させませんでした。
また、スクラロース摂取のみが肝臓コレステロールおよびコール酸の濃度を増加させた。さらに、管腔内代謝産物中の酪酸塩の相対濃度および二次/一次胆汁酸の比率はスクラロース消費量の増加と共に増加しました。