あくまで、一個人として自分や周りの人のために栄養学を勉強している学生の視点です。栄養学の専門家ではありませんので、誤りや考え方に偏りがある可能性があることを前提にお読みいただければ幸いです。
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栄養学における臨床栄養学と栄養疫学の違い
栄養士と管理栄養士って何が違うんだろう?
栄養士さんや管理栄養士さんの仕事ってイメージがつきにくいですよね。
栄養士さんや管理栄養士さんは栄養指導や栄養管理を行う職業ですが、この名称の違いは健康な人を対象にしているか、病気の方を対象にしているかにあります。
管理栄養士は(中略)病気を患っている方や高齢で食事がとりづらくなっている方、健康な方一人ひとりに合わせて専門的な知識と技術を持って栄養指導や給食管理、栄養管理を行います。一方、栄養士は都道府県知事の免許を受けた資格で、主に健康な方を対象にして栄養指導や給食の運営を行います。
病院やご高齢の方への栄養指導は「管理栄養士さん」のお仕事で、保育園や給食などの栄養指導は「栄養士さん」のお仕事となります。
臨床栄養学は「患者さんの気持ちを考えて作る」栄養学
「臨床」という言葉は「病人の床のそばに行くこと」を意味しています。確かに「床に臨む」という漢字で臨床ですよね。
現場は教科書通りにはいきませんから実践的な対応を取ることが求められます。医師は患者さんの治療をすることが最優先になるのと同様に栄養士さんも患者さんのできる範囲で栄養バランスを考えた提案が必要になります。
このとき大切なのは「正しい」提案をすることではなく、あくまで患者さんの気持ちを考えながら活動することです。病床では食べたいものも満足に食べられないことも多いです。
そんなときに、「どうしても食べたい」と言われたらどうしたらいいのか。もし、少しなら良いというのであればどの程度なら健康に影響が出ないと考えられるのか。
その場で目の前の患者さんのために配慮しながら栄養管理を行わなくてはなりません。
栄養疫学は「健康な生活を送るために栄養素をどのくらい摂ればよいのか」を調べる栄養学
国立栄養健康研究所には、栄養疫学について「食生活・栄養による健康への影響を明らかにするため、疫学的手法を用いた栄養学研究を行っています」と記載されています。
塩分は1日どの程度までに抑えておくことが望ましいのか?
習慣的な喫煙とがんの関係性はどのくらいなのか?
など、エビデンス(根拠)となるべき様々なデータを収集し分析します。
この栄養疫学で研究されて研究成果が蓄積されてくると、それはひとつのエビデンスとして医学の学会において大多数を占める考え方になります。
多くの学会ではそれぞれの病気や症状に対してガイドラインを公開しており、医師やコメディカルスタッフはこうした学会のガイドラインに従って患者さんの指導を行います。
現場では各種ガイドラインを活用して臨床にあたる
これまでのお話から、臨床栄養学において活用している「ガイドライン」の根拠を作っているのが、栄養疫学であるということになります。
例えば糖尿病の診療ガイドラインに食事療法の項目がありますが、こちらで挙げられている根拠はすべて世界中の栄養疫学に関する研究成果から生まれています。
日本糖尿病学会 − 科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン2013
日々取り入れている実践的な栄養指導の根拠はこうしたガイドラインに基づいているものと考えられますが、そのまた根拠としては栄養疫学による多くの研究成果が積み重なって成立しているということです。
エビデンスベース栄養学がなぜ注目されているのか
日本栄養士会と国立健康・栄養健康研究所などが協働してPJ発足
平成29年、国立健康・栄養研究所(K)、日本栄養士会(N)、神奈川県立保健福祉大学(K)の3社によるKNKプロジェクトによる鼎談「科学的根拠に基づく管理栄養士・栄養士の活動」が行われました。
健康番組の影響を受けて、一時的にしか効果のないダイエット法が盛んに紹介されたり、WELQのような健康メディアが誤った情報をインターネットで拡散しており問題化したことが背景にあると考えられます。
栄養士さんのなかにも根拠に基づかず、ネットで手軽に得た情報をそのままクライアント、患者さんに伝えてしまったりする職業倫理に反した活動を行っている人もいます。
こうした、背景から質の高い医療情報を提供できる専門家として、根拠に基づく栄養学について関心が高まっていると考えられます。
世界的な栄養ケアプロセスによる栄養学の言語の統一化も背景に
これまで栄養士や管理栄養士は栄養状態の判定を業務としてきましたが、その判定のために統一された言語や概念、方法がなく、国内はもちろん国際的にも混乱が起こっていました。
アメリカの栄養と食事のアカデミー(Academy of Nutrition and Dietetics;AND, 元アメリカ栄養士会)が主導となり、栄養管理に関する言語の定義づけを行い、栄養ケアプロセス(NCP)として言語を統一化に動いています。
これを用いることで、栄養管理の際に至極シンプルに記述することが可能になります。
具体的には、「対象者の栄養状態に問題が生じている根拠と原因を示し、栄養状態の問題を総合的に判定」していきます。例えばこのような記載になります。
教育入院や栄養指導を行っても早期に体重増加・HbA1c の悪化が見られ、指示栄養量も
把握していないことから、食事療法について学ぶことへの無関心による、セルフケアの
管理不能や熱意の不足であると栄養診断する。
エビデンスとして信頼性の高い根拠、正しい栄養状態の判定のため
栄養管理の際に用いられる用語の不統一さは、体系的な栄養管理を難しくします。
体系的に根拠が定義づけられなければ、その介入がどれほど効果があるのか、それともないのか、悪影響を与えているのかについてもデータを用いて説明することが難しくなります。
エビデンスベースの栄養学と聞くととても敷居の高い学問のように聞こえますが、決してそうではなくルールに則ったなるべく正確な判断を積み重ねていくための土台となる情報なのです。
臨床における正しい栄養判定を行うためにも、長年の経験や勘による判断ではなく、その患者さん個人の状況を十分に見極めた上で、どういった介入が効果的かを判断します。
そのためにエビデンスに則った栄養指導や、エビデンスを構築するための栄養ケアプロセスの活用が求めてられていると考えています。
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こちらの本はとてもわかり易い栄養疫学に関する本です。内容は統計学や研究方法論など、どちらかといえば大学院での栄養疫学研究に役立つ内容になっています。
根拠となる英語の論文を正しく解釈するための方法論としては非常にまとまっており、そして、実際に「こういう内容の質問が来たら?」という形で紹介しているのでわかりやすいです。
世界中のいろいろな健康情報をEBNで解釈してみよう
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例えば「地中海食は健康に良い!」といった話を聞いたことがありますよね?
こうしたとてもわかり易い健康情報はたいてい偏りがあります。もちろん、間違っていないところもあるので、完全に間違っているとは言えないのですが、そういった厳密な点まで研究論文を読み解いて解説してくれます。
一度内容をさらっと読んでみると面白いことがわかるかもしれません。
健康になるための食事としてEBNがあるものはこれだけ
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医師でありハーバード大学医学大学院でPh.Dを取られた津川氏による著書です。
エビデンスベースだけあってシンプルに「健康になるための食材」として効果が明らかになっているものだけをしっかり説明して取り上げています。
ちなみに本を購入しなくても、結論はこちらから見れます。こうしてみると、科学的に証明された食材というのはとても限られてますね。
しかし、こればかり食べていたらそれはそれで偏食になりますし、無理してストレスを抱えながら食べるのもまたとてもつらいことですので程々にしましょう。