子供の好き嫌いはわかるのですが、どうしても親心としては健康的に育ってほしいと願うがゆえに厳しくしつけ無ければならないと思ってしまうものです。
そんな子どもたちの好き嫌いとその対処法について調べてみたいと思い、今回は子供の好き嫌いについて実践的な行動改善の方法をまとめました。
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前提:人としての子供は大人と変わらない
世界的に子供の好き嫌いに関する研究があり、好き嫌いがある子どもの割合はオランダの4歳児の5.6%からアメリカの2歳児の50%まで、質問の仕方などによって大きく異なりますが世界的に報告されています。[1]Taylor, Caroline M., et al. “Picky/fussy eating in children: Review of definitions, assessment, prevalence and dietary intakes.” Appetite 95 (2015): 349-359.
いくら子供とはいえ、美味しいと感じるものは大人も美味しいと感じますし、これは不快だと感じるものはたいてい大人も不快に感じます。
一人の人間として本能的に感じることは同じだということは意識しておくとGoodです。
1. 好き嫌い克服のための生物学的アプローチ
本能的に苦いものや生のもの、匂いのあるものは苦手
「子供だから言うことを聞きなさい」という対応を取ると解決が遠のきます。
子供は生物として「本能」に突き動かされているということを知っておく必要があります。
例えばゴーヤチャンプルーが好きな大人はいますが、ゴーヤチャンプルーがきらいな子供はたくさんいいるではないでしょうか。
ゴーヤは苦味のある野菜で沖縄で良く食べられます。関東の人にはあまり馴染みがない野菜だったので大人でもあまり得意ではない人も多いと思います。
子供も全く同じで、苦いものは基本的には「毒」と判断します。
葉っぱをかじると苦いですし、たけのこのアク抜きをしないと苦いです。これは植物は動物に食べられないようにするためにわざと苦い物質を作っているからです。
生物や匂いのあるものも「腐ってる」可能性があると本能的に感じるため苦手です。
逆に甘いものが苦手な子供はおそらくいないのではないでしょうか。
現代ではショ糖(砂糖)が日常にあふれています。大人もスイーツやタピオカドリンクは大好きですよね。これは本能的に甘いものを求めてしまうからです。
こうした手軽な「高カロリー」の食品がとても安価に手に入れられるようになった現代社会においては、ついついこうした食品を食べてしまいます。
子供も大人がスイーツやお菓子が好きなのと全く同じで、
本能的に高カロリーの甘いものを求めているということは意識しておくと良いでしょう。
運動や外遊びをすればどんなものでも美味しいと感じる
子供は基本的に外遊びが好きです。
大人が汗をいっぱいかいてハードなトレーニングをしたあとの食事をとても美味しく感じるのと同じように子供もまた全力で遊んだ後の食事は美味しいのです。
遊ぶところが減っている現代において身体を動かせる場所も減っていますし、一緒に遊ぶ友達もまた減っているかも知れませんが、子供が外で遊び回るのはとても良いことです。
お腹が空いたときには、少し嫌なものがあってもとりあえず口にいれたいという欲求が勝りますので自然と好き嫌いが緩和されます。
ダイエットやトレーニングにおいても食事は基本です。変に抜いたり簡単な流動食にすると逆に体重が落ちづらくなったり、筋肉が分解されて脂肪が落ちません。
体を肉体的に疲れさせるとすべての食事がより楽しくなるということもまた大切です。
やはり慣れが一番好き嫌いを改善する
子供は何かとても考えがあって、好き嫌いをしているわけではありません。
これは前述の通り生物として当たり前なのですが、なぜか「子供だから」「教育だから」と上から押さえつけてしまいがちですよね…
人間はやはり慣れないものはとても警戒します。
普段の生活でも慣れない人と合うときに緊張したり、なにかをきっかけにトラウマになってしまったりするとうまく対応できなくなります。
臨床心理学では「認知行動療法」の中でこうしたシーンを擬似的にイメージしたり、実際にカウンセリングの中で暴露(体験する)していく中で自分の考え方の癖と向き合います。
実は好き嫌いも同じで、何回も少しでも食べていくうちに恐怖心がなくなっていきます。
とある研究ではなじみのない食物を味わう機会が繰り返されると、好みと消費量が増加することを示しています。さらにこれらの結果が現実の状況で再現できるかどうかを調査するために、介入の有効性をテストな研究が行われました。
学校で実際に行われた研究では、生トウガラシの嗜好性と摂取量の大幅な増加が5〜7歳で見られ、さらに2つの研究で母親が野菜の子供の受容性を高めるために曝露によって子どもたちに慣れてもらった結果、やはり好みが変わってくることがわかりました。[2]Cooke, Lucy. “The importance of exposure for healthy eating in childhood: a review.” Journal of human nutrition and dietetics 20.4 (2007): 294-301.
とてもシンプルな研究ですが、地道に慣れてもらうことで効果が出ることは明らかです。
2. 好き嫌いを克服する心理学的アプローチ
大人の偏食は子供の好き嫌いに強く影響する
母親の好きな食べ物と嫌いな食べ物、および子供の食べ物と、それらの食べ物の摂取頻度との間に強い関連性が見られたという研究があります。[3]V. Finistrella, M. Manco, A. Ferrara, C. Rustico, F. Presaghi, G. Morino, Cross-sectional exploration of maternal reports of food neophobia and pickiness in preschooler-mother dyads, Journal of the … Continue reading
当たり前ですが、親が苦手にしている食べ物は食事の際に避けると考えられます。
子供は親を見て育つので、食べたことのない食材には警戒します。すると、子供も好き嫌いが生まれてしまい、親と同じような好みに偏ってしまいます。
苦いものが苦手で食べない大人がいるのに子供には食べさせる。大人がお菓子を食べているのに子供には食べてはダメというのはおかしいですよね。
こうした「理不尽さ」は子供でもしっかり理解できます。
苦手なものを一緒に食べているというだけで不信感は減らすことができます。
好き嫌いに対応するためには子供のメリットをしっかり伝える
子供が嫌いそうな食べ物を出すときにどのように食べてもらえば良いでしょうか。
心理学的なアプローチから研究した論文によれば、「もっと大きくなりたかったらお豆を食べるといいよ」といった肯定的な言葉掛けが有効であることがわかりました。[4]Lanigan, Jane, et al. “Child-Centered Nutrition Phrases Plus Repeated Exposure Increase Preschoolers’ Consumption of Healthful Foods, but Not Liking or Willingness to Try.” Journal of … Continue reading
しかも、言葉掛けをしなかった食べ物に比べ、食べる量が2倍以上になったといいます。
そして、実はこの実験からはもうひとつ面白いことがわかりました。
この実験では3歳から5歳児の87人を対象に6週間に渡る実験を行ました。しかし、実験前、実験中、実験後の調査では健康的な食べ物の摂取量は変わらなかったそうです。
にもかかわらず、実験終了1ヶ月後の調査では子供たちの向上心に響くような、正確な栄養情報に基づくフレーズをもちいて提供した食べ物の摂取量が2倍になっていたというわけです。
最初に考えていた1ヶ月半という期間では、この食べ物の良さが子供には届かなかったようですが、その後の1ヶ月でじわじわとこの食べ物を食べることのメリットが子どもたちの向上心に響いていったのですね。
ですから、全国の親御さん。1日好き嫌いがあったからといって諦めないでください。
毎日こどもの向上心に響く栄養情報を伝えていれば3ヶ月後くらいにはいつの間にか、少しずつ食べる量が増えていくかもしれませんよ。
子供に行動変容を促すような接し方を意識すること
皆さんのなかにはお仕事で営業をされている方も多いと思います。そうでなくても会社内で上司に説明したり、部下を指導したりすることはよくあるはずです。
このときに何を一番重視していますか?
「相手に自分の意図が伝わること」と思うかもしれませんが、これでは伝えるだけで終わってしまいます。最終的には「行動」してほしいからこそ「伝える」のではないでしょうか。
相手の行動を変容させるための働きかけこそが本質です。
これは子供に対しても全く同じことです。「子供がわがままを言っている」と捉えるのは自分の都合の良いように子供に接しているだけです。
「この子の行動をかえるためにどんな働きかけをしなければならないか」を考えることで、100%思い通りに動く子供を作るのではなく、
お互いにとって妥結点を生み出すという気持ちで接することが大切です。
3. 好き嫌いを改善するための栄養学的アプローチ
ジュースや炭酸飲料は水分補給よりカロリー補給なので最小限に
子供のときにジュースや炭酸飲料を飲みすぎないように指導されますよね。
ジュースや炭酸飲料が絶対にすべて悪いというわけではないのですが、これはジュースや炭酸飲料がついつい飲みすぎてしまうから要注意なのです。
米国では3人に1人が糖尿病予備群とされていますがこれらの多くはコーク(コーラ)とファストフードの食べ過ぎです。
それもそのはず、500ミリリットルのコーラで225kcalを摂取できます。トロピカーナの100%オレンジでは169kcalを摂取できます。おにぎりが180kcalなので、一気飲みすればおにぎり一つよりもカロリーが多いのです。
それだけではなく、おにぎりに使われる白米に比べると、すでに水に溶けているショ糖(砂糖)は吸収されやすく血糖値を上昇させやすい。
つまりエネルギーを吸収して身体に蓄積させやすいのです。
水分補給は必要ですから、子供にはお水やお茶を与えることで余分なカロリーを吸収せずともしっかりと体の水分を取ることが大切になります。
甘い飲み物やスイーツは沢山食べることで高いカロリーを摂取しますので満腹感を得ることができますが、長期的には肥満や生活習慣病に繋がります。
また、安いエネルギーを取るためだけの食事からは決して満足感を得ることはできません。
親子の間で偏食は一致するという調査結果がある
栄養素の高いとされる(健康的食材とされることが多い)食品は正直に申し上げて「おいしくない」と感じるものが多いです。
前述の通り、親が避けてしまうと子供もどうしても避けてしまうのですが、具体的にどの程度影響するのか調べた論文があります。
親子関係は偏食において、特に全粒穀物、果物、でんぷん質のある野菜、および乳製品の嗜好において75%以上の一致を示しました。
甘味のある飲料と肉料理の一致率が最も低いと報告されています(39〜66%)。[5]Kaar, JL, Shapiro, ALB, Fell, DM, Johnson, SL. Parental feeding practices, food neophobia, and child food preferences: what combination of factors results in children eating a variety of foods.Food … Continue reading
ちなみに、この論文では親子の間の相互関係に着目していますが、「こどもに無理やり食べるように勧めると好き嫌いが強まる」という点にも触れています。
やはり、行動変容を促すようなポジティブな声掛けが必須であることが示されます。
まとめ
まず、子供に無理に食べさせないでください。子供に好き嫌いがあるのは当たり前で世界中の子供にみられることなので「うちの子だけが!」と思う必要はないです。
そして、現代は砂糖や小麦が普及したことで日常の食品すべてが本能的に「ほしい」と思わせる食品への中毒性が高まっているということもまた事実です。
子供は大人よりも理性が発達段階にありますから、本能に訴える甘い飲み物や食べ物はとても欲しがります。しかし、これらを摂取しすぎると糖尿病や肥満につながります。
まずは、だからこそ好き嫌いがなるべく少なくなるように無理せず、少しずつ慣れさせることが大切です。その際は子供が「食べたい!」と思うようなメリットを提示しましょう。
そのうえで、親としては行動を子供に見せなければなりません。自分が苦手な食材であってもなんとか食べられるような形にして一緒に美味しく食べることが大切です。
好き嫌いをなくすために、すぐに効果が出る方法はありません。
研究においても長期間(数ヶ月)働きかけを継続したり、粘り強く子供に食べ物を曝露させて少しずつ行動変容を促すことが一番効果的です。
あまりに無理やり食べさせると逆に好き嫌いを強めることになるので注意してください。
References
↑1 | Taylor, Caroline M., et al. “Picky/fussy eating in children: Review of definitions, assessment, prevalence and dietary intakes.” Appetite 95 (2015): 349-359. |
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↑2 | Cooke, Lucy. “The importance of exposure for healthy eating in childhood: a review.” Journal of human nutrition and dietetics 20.4 (2007): 294-301. |
↑3 | V. Finistrella, M. Manco, A. Ferrara, C. Rustico, F. Presaghi, G. Morino, Cross-sectional exploration of maternal reports of food neophobia and pickiness in preschooler-mother dyads, Journal of the American College of Nutrition, 31 (2012), pp. 152-159 |
↑4 | Lanigan, Jane, et al. “Child-Centered Nutrition Phrases Plus Repeated Exposure Increase Preschoolers’ Consumption of Healthful Foods, but Not Liking or Willingness to Try.” Journal of nutrition education and behavior 51.5 (2019): 519-527. |
↑5 | Kaar, JL, Shapiro, ALB, Fell, DM, Johnson, SL. Parental feeding practices, food neophobia, and child food preferences: what combination of factors results in children eating a variety of foods.Food Qual Prefer. 2016;50:57–64 |