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超加工食品の摂取と健康リスクについて
スペインにおける超加工食品摂取量と死亡率の関係
スマウェルでは以前、超加工食品と中毒性に関する研究を以前ご紹介しました。
ポテチやピザなどの加工食品はやはり油が多く、人間の本能を刺激するため、
ついついと手が伸びてしまうことはみなさんも日常的に感じていることと思います。
この結果として、肥満や糖尿病リスクが増える可能性は考えられられるのですが、
今回はスペインにおいて超加工食品の摂取と死亡率の関係性を調査した、
2019年5月のBritish Medical Journal誌に掲載されている論文をご紹介します。[1]Lawrence, Mark A., and Phillip I. Baker. “Ultra-processed food and adverse health outcomes.” (2019): l2289.
先行研究により、超加工食品の摂取は代謝異常や肥満と関連することが示されており、
今回の研究は、死亡率との関連について調査することが目的です。
University of NavarraのBes-Rastrolloらは、1999~2018年の大学であるSeguimiento Universidad de Navarra(SUN)の19,899名を対象として前向きコホート研究を実施しました。
データは1999~2014年までの期間で収集され、食品・飲料摂取のNOVA食品分類による2年毎のフォローアップが行われています。
エネルギー量によって少量、少量~中量、中量~大量、大量の4つに分け、それぞれの超加工食品の摂取と全原因死亡率との関連性を調べました。
その結果、超加工食品の大量摂取は少量と比べ、全原因死亡率の62%ハザード増と関連し(多変量HR:1.62)、有意な用量反応関係が観察されました。
また、超加工食品の追加摂取ごとに死亡率は18%増加すると報告しました。
この超加工食品と死亡リスク論文はどれほど信頼できるか?
この研究結果だけを素直に聞くと「超加工食品は危険性が高い」と感じるかもしれません。
確かに統計的に今回のNOVA食品分類によって分類された「超加工食品」の摂取量と、全原因死亡率の増加は統計的に有意であるという結論です。
しかし、この研究では「超加工食品だけが健康に影響を与えていたかは不明」です。
この前向きコホートと呼ばれる方法は、原因因子に曝露されているか否かで、それぞれの集団で将来どのような疾病が発生していくかを追跡する方法です。
研究方法の限界はつきもので、この方法だと実験参加者が正しくアンケートを解答しているかどうかまでは十分に観察できないことが弱点になります。
また、予防医学や栄養学において調査で使われるデータは概して「過少申告」されます。
参加者も人間ですからできるだけ健康的な姿を報告したいということもありますし、
人間は食べたものの10%〜20%程度を忘れていると考えられます。
例えば、英国の国会栄養調査(2008-2014)では平均エネルギー摂取量は1764キロカロリー/日と報告されています。
しかし1食588kcalと考えれば、おにぎり2、3つ程度ですし、
いくら粗食と言われることのあるイギリスの料理だとしても食事を抑え気味です。
そして、特定の食事の影響とそれが罹患率または死亡率との関係を調べる研究では、
時変の交絡因子を適切に制御できることが重要です。
このような研究設計の上に分析されればより確からしいことが言えるかもしれません。
超加工食品と健康リスクのコンセンサスは固まっていない
結論から言えば「いろんな影響を排除しきれないのでなんとも言い難い」となるのですが
似たような超加工食品に関する研究成果があることからメディカルオンライン誌では、
「コンセンサス的方向である」と記載しています。
確かに結論としてはそのような方向として導かれている研究が多いようです。
一方で前述の通り母集団の標本やデータ取得方法、超加工食品分類法、
時系列的な交絡因子など統計に結論付けるためのそのデータと分析法に、
まだまだ議論の余地が多いということを差し引いて論文を読む必要もあります。
例えばフランスで報告された超加工食品とがん発生についての報告[2]Fiolet, Thibault, et al. “Consumption of ultra-processed foods and cancer risk: results from NutriNet-Santé prospective cohort.” bmj360 (2018): k322.においてもリスクが示唆されましたが、
この論文に関しては様々な意見が提出されており、
日本でも国立衛研安全情報部長の畝山智香子氏も警告を鳴らしています。
“危ない超加工食品”を鵜呑みにしてはいけない
からくりを国立衛研安全情報部長・畝山智香子さんに聞く #BLOGOS
https://blogos.com/outline/371705/
一方で超加工食品とされる食品に当然栄養の偏りはある
確かに、超加工食品に分類される食品を中心に食べてしまうと栄養的偏りがあります。
例えば先程取り上げた英国の国会栄養調査において、カロリーの30.1%は未加工または最低加工食品から、4.2%は通常の食材から、8.8%は加工食品から、そして56.8%は超加工食品から得ていることが分かっています[3]Rauber, Fernanda, et al. “Ultra-processed food consumption and chronic non-communicable diseases-related dietary nutrient profile in the UK (2008–2014).” Nutrients 10.5 (2018): 587.。
また、超加工食品の消費量が増加するにつれて、炭水化物、遊離糖(砂糖など)、総脂肪、飽和脂肪、およびナトリウムの食物含有量は大幅に増加しますが、タンパク質、食物繊維、およびカリウムの含有量は減少しました。
超加工食品の消費量の増加は、遊離糖の平均含有量に著しい影響を及ぼしています。
もちろん、炭水化物や飽和脂肪やナトリウムのすべてが有害というわけではなく、
人間が健康的に生活するのに必要な化学物質であることに違いはありません。
しかし、超加工食品中心の食生活では長期で望ましくない影響が出る可能性が高いです。
タンパク質や緑黄色野菜もしっかり摂取することで初めて健康が維持されるのです。
ものすごく当たり前ですが、超加工食品に分類される食品ばかりを食べている人は、
やはり食生活が乱れている可能性が高く、食品添加物の影響以前の問題として、
栄養素や運動習慣なども乱れることで肥満や病気のリスクが高まっているでしょう。
食品安全性の問題というよりは広く生活習慣の問題という事になりそうですね。
こうした超加工食品と健康リスクの研究においてはどうしても解釈が入ります。
そのため「食品添加物が健康リスクに影響している」といった主張も出てくるのですが、
食品添加物と健康リスクの研究はまた別にそれぞれの国で十分研究された上で、
使用されているため超加工食品だから特別にその影響が大きいということはありえません。
もちろん、その食品添加物の健康リスクについても、今回取り上げた研究同様、
科学者の間でのマウスやヒトを対象にした実験・研究を元に判断していますので、
近い将来変更される可能性はゼロではありません。
科学技術にはどうしても伴うメリットとリスクの関係を十分理解して、
科学的コンセンサスを消費者がどう解釈するかは個々人に委ねられているのです。
References
↑1 | Lawrence, Mark A., and Phillip I. Baker. “Ultra-processed food and adverse health outcomes.” (2019): l2289. |
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↑2 | Fiolet, Thibault, et al. “Consumption of ultra-processed foods and cancer risk: results from NutriNet-Santé prospective cohort.” bmj360 (2018): k322. |
↑3 | Rauber, Fernanda, et al. “Ultra-processed food consumption and chronic non-communicable diseases-related dietary nutrient profile in the UK (2008–2014).” Nutrients 10.5 (2018): 587. |